支援の実績

第21回読売療育賞に大阪発達総合療育センターフェニックス(2025年10月)

 重症心身障害児施設の優れた実践研究を表彰する「第21回読売療育賞」(読売光と愛の事業団主催)の最終審査が10月3日、さいたま市内で行われ、最高賞の療育賞に、亡くなった入所者の告別式を施設内で営むという異例の経験をリポートした大阪発達総合療育センターフェニックス(大阪市)が選ばれました。記念のトロフィーと助成金50万円が贈られます。奨励賞(助成金30万円)は旭川荘療育・医療センター旭川児童院(岡山市)、光の家療育センター(埼玉県毛呂山町)、神戸医療福祉センターひだまり(神戸市)の3施設に決まりました。 2P目療育賞.jpg

 大阪発達総合療育センターフェニックス(以下、フェニックス)の研究発表は、亡くなった入所者の家族から「長らく過ごした施設で見送ってあげたい」などと要望され、施設を会場に異例の告別式をうこととなった、その記録と考察に関するものです。グリーフケアとは、身近な人との死別がもたらす深い悲しみに寄り添い、乗り越えて生きていけるようサポートすること。研究成果をまとめたのは、看護師の水野真有さん、梶原綾さん、松本久美さんの3人です。審査会では「施設にとって今後極めて重要な課題を示してくれた、価値の高い演題」と激賞されました。(写真は左から梶原さん、水野さん、松本さん)

 発表によると、フェニックスでは、過去11年間で20人の入所者を看取ってきました。亡くなった当日に病棟で「お別れ会」を催し、自宅や葬儀場へ送り出すことがほとんどでした。職員は準備作業に追われ、故人やその家族にかかわる時間を持てず、他の入所者を伴って葬儀に参列することも難しいのが実情でした。

 そうした中、進行性筋ジストロフィーを患って施設で15年ほどを過ごした四十歳台前半の男性が2022年に亡くなりました。母親から「告別式というものはどこでもできるそうだ。ここで一緒に過ごした人たちに見送ってほしいから、施設でできないだろうか」と相談がありました。

 男性が好きだった音楽を流して見送る「音楽葬」にしたい、というのが母親の希望。フェニックスとしては初めてのことで、当初はどうしたらいいのだろう、難しいのではないか」と驚き、戸惑いましたが、葬儀会社に頼んで会場を設営し、男性の好きな楽曲を流したり、男性が施設で過ごしてきた様子をスライドショーなどで紹介したりと、できる限りの工夫をこらしました。家族と職員が、心ゆくまでゆっくり故人に寄り添うことができるとなり、職員たちは、心がとても満たされたといいます。

 この男性がいた病棟で対応にあたった松本さんに、母親は、「こんな良いところで、良い人たちに囲まれて過ごしたのだということを、親類にも知ってもらいたい」と語ったそうです。それを聞いて松本さんは「ここ一緒に過ごした利用者さんたち皆でお見送りできたということが、グリーフケアにつながるんだ、という気づきがありました」と振り返ます。

 この男性の後に亡くなった、10歳以下の男児2人についても、母親が施設での告別式を希望し、水野さんらが対応しました。家族式までの数日間を病棟の一室で過ごし、当日は、それぞれ、きょうだいの発案で「ありがとう!」と言いながらクラッカーを鳴らしたり、主治医のピアノ伴奏で参列者皆が合唱したりしました。

 これら3事例を今回、実践研究として読売療育賞に応募したのは、施設の理事長ら医師たちから「このような経験を世に広く知ってもらわなければ」と背中を押されたから、と梶原さんは言います。今後、施設で告別式をしたいと考える家族は増える可能性がありますが、一方で、業務への支障や準備の負担を心配する声も聞かれるなど、課題もあると感じています。

 松本さんらは、「取り組みを認めてもらえてうれしい。スタッフ皆が、忙しい中を悩みながら頑張ってくれたからできたこと。間違っていなかったね、ということをスタッフと、亡くなった入所者のお母さん伝えたいです」と笑顔で話していました。

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